TwilightSmile

 ~ 定年 another story ~

私の30代 ①

結婚した私に転機が訪れました。
勤めていた繊維会社が新規子会社を立ち上げ、私はそこの営業担当者として異動になったのです。
その子会社は婦人服の卸及び小売を業務内容としていました。

一から始める事業でした。
一から始める営業でした。
会社は大手アパレルメーカーから営業部長をヘッドハンティングし、その方の下で私は一からアパレルの営業を仕込まれました。
これまでの商社等に営業するのとは全く畑違いの仕事でした。

婦人服専門店の開拓。
車に婦人服を積んで北から南へと飛び込み営業をいたしました。
名の知れぬブランドをはいそうですかと簡単に仕入れてくださるお店はありません。
毎日毎日婦人服を担いで飛び込む日々。
はじめて取引ができたのは茨城県日立市のブティックでした。
大雨の中吉報を届けに車を飛ばし帰社した時、上司同僚みなで喜びを分ちあったことは忘れ得ぬ思い出です。

百貨店の売り場の開拓もいたしました。
これもまた小売店への営業とはまったく違った形態の営業でした。口座を得なければ売り場は得られません。百貨店口座を開くには、飛び込みでは難しく、人からの紹介が必要でした。北は函館、南は大分の百貨店まで私は口座を開くために人の伝手を頼りに通いました。

記憶に残るとてもうれしかったことがあります。
今ではそんなことはあまりやらないのでしょうが、名刺の裏書をいただけたことがあります。
名刺の裏書とは、その方の名刺の裏にその方の直筆で「この者は信頼できる。この者を紹介するので会ってやってくれ」という主旨のお言葉をいただくことです。

とてもうれしかったこととは、小倉の百貨店の社長さんに私は名刺の裏書をいただけたことです。
私はその名刺を持って熊本・大分の百貨店にお伺いしましたところ、まだ30そこそこの私はそれぞれの社長様に直接ご面会を賜ることができました。それぞれの社長様はその場で売り場責任者をお呼びになり、トップダウンで私のプレゼンを聞いてくださる場を設けてくださりました。今ではあり得ないかもしれませんが、本当にありがたい思い出です。

・・

ググってみましたが、「名刺の裏書」について私の思う内容は見つかりませんでした。時の流れに消えたのでしょうか。
ネットも携帯もない時代には、直筆、というのがとてもとても重要なの頼りだったように思えます。

古き良き習慣。
私だけは忘れないでおこう。