TwilightSmile

 ~ 定年 another story ~

人間はモータルな存在(出家とその弟子より)だ か ら、

ベランダで植物を育てている。過去に何度か題材にもしたベランダ園芸である(たとえばこちら)。植物は春種をまき芽が出て夏に向かい葉を広げ茎を伸ばしやがて夏から秋に花が咲き実がなりそして秋から冬枯れて朽ちる。毎年毎年ベランダで同じことを繰り返しながら、どんな生物も似たように同じだとつくづく思う。生まれ育ち成長し結ばれ子を作り老いて枯れ朽ちる。人もまた同じ。生まれ出でたる限りはやがて死ぬる者。モータルな存在なのである。

そのモータル。数日前の記述で私は文章の流れのなすがままに突然と「人間はモータルな存在」と記した(こちら)のだが、このモータルという言葉をどこで覚えたのか書き終えた後ふと疑問を持ち、しばし記憶の糸をたぐりながら過去を深くまで探って思いだしてみたところ、これだという書を探り当てた。それは倉田百三の「出家とその弟子」であった。著者は私が大学生だったころ、今から40年以上前の私に感銘を与え夢中になって読んだ作家であった。「出家とその弟子」はその倉田百三が26歳の時に著した歎異抄を背景とした宗教文学で著者の代表作であった。

出家とその弟子

書棚を探したらまだあった。パラパラとめくる。当時の文庫ってこんな小さな文字だっけというほどちっちゃな文字。老眼の進んだ私にはとても読みにくい本であった。だが苦労して読んでいると次第に引き込まれ結局全編読み切ってしまった。

さてモータルであるが、「出家とその弟子」の序でこう描かれている。(以下抜粋)
顔蔽いせる者「(人間は)禽獣草木魚介の族と同じく死ぬるものである」「「死ぬる者」とは「罪ある者」とは同じことである」「(人間は)皆悪人である。罪の価は死である。」
人間「私は共食いしなくては生きることができず、姦淫しなくては産むことができぬようにつくられているのです。」
顔蔽いせる者「それがモータルの分限なのだ。」

・・

人はいつか死ぬ。必ず死ぬ。禽獣草木魚介の族と同じく死ぬるものである。そして特に私はその中で還暦を過ぎ他者に比して確率的に大いに死に近づいている者である。
(同じようなことを何度も(こちらこちら)書くが)令和2年簡易生命表(こちら)によれば男の平均寿命は 81.64 年、女の平均寿命は 87.74 年。また平均余命は60歳で男24.21年、女29.46年となっている。がこれはあくまでも平均だ。少なくとも間質性肺炎なるものが判明している私(こちら)は平均よりは早くに死ぬると思っておくが賢明と心得る。だ か ら、身辺生前整理が急がれるのである。だ か ら、妻との残された時間を大切に生きねばならぬ。

唯円「あの人を思う私のこころは真実に満ちています。胸の内を愛が輝き流れています。湯のような喜びが全身を浸します。今こそ生きているのだというような気がいたします。」(「出家とその弟子」第五幕より)
・・今やこのような純粋な恋心など忘れてしまったけれど、かつてはかように純粋に妻と恋愛し結ばれたのである。結婚して30数年、生きているという喜びを分かち合い歩んできてくれた妻に、先立つ私の赦しを乞い、あとに残される者の悲しみに耐えうるような楽しい幸せな思い出を残すために、だ か ら、私は残された短い時間をできるだけ妻のために費やすのである。

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